03-01000 珍努縣主舊趾

珍努縣主ちぬのあがたぬしの舊趾きうし

國府こふにありむかし和泉郡の大領だいりやう直沼縣主ちぬのあがたぬし倭麻呂やまとまろからす邪婬じやいんを見て世をいとひ出家し名を信巌しんげんと改むる事日本霊異記れいゐき 壒囊鈔あしのうせう 袖中鈔しうちうせうに出たり
もんに曰ある時大領だいりやう倭麻呂やまとまろかと大樹だいじゆからすをつくりて子を産抱うみいだ
雄鳥おとり飛行とびゆきて食を求め子をかゝへ妻鳥つまとりやしなふ又雄鳥おとりしよくもとめに行けるにからす交易つるみ
かんによりてのち雄鳥おとりと共に髙く空にはうつきたをさして飛
まへ雄鳥おとりしよくもとし來て見るにつまなし夫鳥おふとからすことりいつくしみてこれを抱きしよくもとめずして数日を
大領たいりやうこれをあやしみて人をしてあがらせ其を見せしむるに兒鳥ことりをいだきながらしにける
大領たいりやう大慈だいじ愍心みんしんなれば烏の邪婬じやいんを見てつひいとひ家を出妻子さいしはな官位くはんゐすて行基ぎやうぎ大德にしたがふて善道を修し信巌しんげんと改めされよりつねに佛經をとな戒行かいぎやうを修し大德と共に西方極樂に往生せんと要語す
大領か妻も亦捨てられしかと恚瞋けいしんいろなく貞潔ていけつ
寵愛ちようあいの男子を先立さきたて涕哭ていこくし共に出家す
信厳法師しんげんはうしさいわひなく大德より已前に命終しぬれば行基菩薩ぎやうぎぼさつあわれみ給ひてうたよみ給ふ
 加良酒等伊布於保乎蘓等利能去等乎美天等母迩等伊比天佐岐陀智伊奴留からすといふおほおぞとりのことをみてともにといひてさきたちいぬる